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消化器いろいろ

本邦のNSAIDs/低用量アスピリン潰瘍の現状と課題

NSAIDs/低用量アスピリンによる胃粘膜傷害

川崎医科大学 食道・胃腸内科教授 春間賢
川崎医科大学 食道・胃腸内科講師 鎌田智有
川崎医科大学 食道・胃腸内科准教授 塩谷昭子

はじめに

 高齢者人口や動脈硬化に起因する血管性病変の増加により、腰痛や骨関節疾患の治療あるいは血栓症の予防目的などにNSAIDsを使用する機会は著しく増加している。ヘリコバクターピロリ(以下ピロリ)菌の発見以来、消化性潰瘍の原因はピロリ感染と解釈されがちであるが、ストレスやNSAIDsなどの薬剤も消化性潰瘍の原因であり、とくに最近ではピロリ感染の既往のないNSAIDs潰瘍が増加しつつある。われわれの最近の検討では、通常経験する非NSAIDs潰瘍のピロリ感染率が90%以上であるのに比較し、NSAIDs潰瘍のピロリ感染率は約50%と感染率が低く、ピロリ感染のないものにNSAIDs潰瘍が発生しやすい1)
 日本では、ピロリ感染者は加齢とともに萎縮性胃炎が進行し、胃酸分泌が低下する。ピロリ感染あるいはNSAIDsに起因する潰瘍といえども、攻撃因子である胃酸がその発生に重要な役割を演じており、胃粘膜の萎縮が進行し、胃酸分泌が欠如した状態では、NSAIDsが投与されてもプロトンポンプ阻害薬などの強力な胃酸分泌抑制薬を内服しているのと同じで、潰瘍が発生することは稀である。一方、ピロリ非感染者では胃粘膜は萎縮することはなく、胃酸分泌が保たれるためNSAIDs潰瘍ができやすい状態にある。また、ピロリ感染者でも、時代とともに日本人の胃酸分泌は増加しつつあり、今後、低用量アスピリンを含めNSAIDs潰瘍の頻度は日本では増加する疾患と考えられる。

NSAIDs潰瘍の特徴と頻度

 急性のNSAIDs潰瘍では心窩部の激痛を訴えるが、通常の消化性潰瘍に比べ胃痛などの自覚症状が軽く、貧血や突然の吐下血で診断されることが多い。われわれの施設の最近の成績では、出血性消化性潰瘍の約40%がNSAIDs関連の潰瘍であった。図1に高齢者に認められたNSAIDs潰瘍の一例を示すが、貧血の精査で紹介受診した胃体上部の大きな潰瘍症例で、自覚症状はほとんど認められていない。NSAIDs潰瘍の形態としては、不整あるいは地図状で多発するか、多発する小潰瘍が特徴的所見である(図2)。通常のピロリ感染による消化性潰瘍と同じく胃体部に単発で認められるものもある。
 本邦でのNSAIDs潰瘍の頻度については、Nakashimaら2)の238例の出血性消化性潰瘍の検討では、67例がNSAIDs内服後に発症したもので、うち18例(26.9%)が低用量アスピリンによるものであった。溝上ら3)は382例の消化性潰瘍について検討し、93例がNSAIDs起因性潰瘍であり、うち25例が低用量アスピリンによるものであったと報告している。溝上らの報告でもわれわれの成績と同じく、NSAIDs潰瘍は通常の潰瘍と比較し出血症状が多く、ピロリ感染率が低いことが指摘されている。最近、Sakamotoら4)は、消化管出血症例についてケースコントロール研究を行い、アスピリン使用者では消化管出血の発生率が5.5倍であり、うち常用者では7.7倍の発生率となり、アスピリン以外のNSAIDsによる発生率と差がないことを報告している(図3)。

図1:90歳代半ばの女性に認められたNSAIDs潰瘍

図1:90歳代半ばの女性に認められたNSAIDs潰瘍

深く大きな潰瘍であるが、ほとんど自覚症状は認められない。

図2:低用量アスピリンによる出血性多発潰瘍

図2:低用量アスピリンによる出血性多発潰瘍

 欧米では低用量アスピリンを含めたNSAIDs潰瘍は、消化管出血や穿孔による合併症のため社会問題となっている。米国では、年間2万人近くが、NSAIDsによる消化管合併症で死亡しているとの報告もある。Rodriguezら5)のメタ解析では、アスピリン内服による消化性潰瘍の発生率は相対危険率2.9(95%信頼区間2.3−3.9)であり、剤形、使用量、投与期間に関係なく発生するとされている。Nivら6)の3カ月以上低用量アスピリンを内服した無症状者46例に上部消化管内視鏡検査を行った検討では、47.8%に消化性潰瘍やびらんが上部消化管に認められている。Samら7)の抗血栓薬を内服した心房細動患者393例についての検討では、5年以内に65例(17%)が重篤な消化管出血を発症している。彼らの報告では、男性では非内服者と差はないが、女性ではアスピリンでオッズ比3.5(95%信頼区間1.4−8.7)、ワルファリンでオッズ比3.90(95%信頼区間1.5−10.3)とされている。
 Tahaら8)のスコットランドの検討では、1996年から2002年の6年間の間に消化管出血症例は明らかに増加しており、アスピリンによるものは1996年には15.3%であったが2002年には26.6%に、他の抗凝固薬によるものは3.5%から12.1%であったと報告されている。日本では現在のところ、海外の報告ほど高率ではないが、これは前述したように、抗血栓薬を内服することの多い高齢者は高率にピロリ感染があり、そのため萎縮性胃炎を合併しており、胃酸分泌が低下しているために消化管出血などの合併症が低い可能性がある。今後、ピロリ感染率が低下し、また、除菌療法が普及すると海外と同じ状況となる可能性がある。

図3:アスピリンとアスピリン以外のNSAIDsによる消化管出血のリスク

図3:アスピリンとアスピリン以外のNSAIDsによる消化管出血のリスク

日本での初めてのケースコントロール研究

NSAIDs潰瘍の治療と予防

 NSAIDsが中止できれば通常の潰瘍治療を行うが、中止できない場合はプロトンポンプ阻害薬(以下PPI)あるいはプロスタグランディン製剤により治療を行う。海外ではNSAIDs潰瘍による出血や穿孔などの重篤な合併症のため、PPIによる予防的治療が勧められている。これまでのエビデンスのある検討から、NSAIDs潰瘍の発生を予防できる薬剤はプロスタグランディン製剤、高用量のファモチジン、PPIであり、海外ではPPIがNSAIDs潰瘍の発生予防に主に用いられる。2002年に作成され2007年に改訂された胃潰瘍診療ガイドライン9)では、NSAIDs潰瘍の予防には前述した3つの薬剤がグレードA(行うよう強く勧められる)、エビデンスレベルI(海外でシステマティックレビュー/メタアナリシスで有効性が明らかにされている)で、エビデンスのある薬剤として推奨されている。

おわりに

 消炎鎮痛を目的としたNSAIDsだけでなく、アスピリンをはじめとした抗血栓薬など循環器領域の薬剤の使用頻度が増えるにつれ、消化管出血などの症状を訴え受診する患者が増えつつある。今後さらに、ピロリ感染に起因する萎縮性胃炎の頻度が低下するにつれ、その発生率は増加する可能性があり、日本での大規模な検討と予防効果のある薬剤についてのエビデンスを明らかにする必要がある。

文献

1)Kamada, T., et al.:Endoscopic characteristics and Helicobacter pylori infection in NSAID‐associated gastric ulcer. J. Gastroenterol. Hepatol., 98〜102(2006)
2)Nakashima, S., et al.:A clinical study of Japanese patients with ulcer induced by low‐dose aspirin and other non‐steroidal anti‐inflammatory drugs. Aliment Pharmacol. Ther., 21 (Suppl. 2):60〜66(2005)
3)溝上裕士ら:NSAIDs潰瘍とH. pylori感染の関与、低用量アスピリン潰瘍についての検討―H. pyloriの関与も含めて、消化器科、41、324〜329(2005)
4)Sakamato, C., et al.:Case‐control study on the association of upper gastrointestinal bleeding and nonsteroidal anti‐inflammatory drugs in Japan. Eur. J. Clin. Pharmacol., 62, 765〜772(2006)
5)Rodriguez, LAG., Hernandez‐Diaz, S.:Risk of uncomplicated peptic ulcer among users of aspirin and nonaspirin nonsteroidal anti‐inflammatory drugs. Am. J. Epidemiol., 159, 23〜31(2004)
6)Niv, Y., et al.:Endoscopy in asymptomatic minidose aspirin consumers. Dig. Dis. Sci., 50, 78〜80(2005)
7)Sam, C., et al.:Warfarin and aspirin use and the predictors of major bleeding complications in atrial fibrillation (the Framingham Heart Study) / Am. J. Cardiol., 94, 947〜951(2004)
8)Taha, AS., et al.:Upper gastrointestinal haemorrhage associated with low‐dose aspirin and anti-thrombotic drugs − a 6‐year analysis and comparison with non‐steroidal anti‐inflammatory drugs. Aliment. Pharmacol. Ther., 22, 285〜289(2005)
9)EBMに基づく胃潰瘍診療ガイドライン 編集、科学的根拠(evidence)に基づく胃潰瘍診療ガイドラインの策定に関する研究班、株式会社じほう、東京,2007年

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